鬼平犯科帳'81

鬼平犯科帳’81 暗剣白梅香(あんけんはくばいこう)

鬼平犯科帳(萬屋錦之助版)・第2シリーズ(鬼平犯科帳’81)・第22話:暗剣白梅香
初回放送:1981年9月8日

暗剣白梅香・あらすじ

寛政元年(1789年)、冬の夜。
駕籠舁(かごかき)二人と、乗っていた侍が斬り殺された。

明くる年の春の夜、今度は商人が殺された。
そして更に別の夜。二人の侍が、刀を抜く間もなく斬り殺された。
都合6人が殺された、この一連の辻斬りは、その切口の凄まじさで、一頻り江戸の話題をさらった。
それから約半年、なにごとも無かったかの様に、辻斬りは陰を潜めた。

ある夜平蔵は、一人屋台で酒を呑んでいた。
その帰り道。後ろから殺気を感じ振り返ると、黒頭巾の男が斬りかかってきた。

平蔵は笠を投げつけると、素早く抜刀し、斬り結んだ。
「ただの辻斬り、物取りとも思えん。何故俺を狙う」
平蔵にこう言われ、男は逃げていった。
後には女の香が残った。しかし、腕、足つきからみて、やはり男と思われた。

〜岡場所〜
鋭い目付きの浪人が、いつもの女のところへやって来た。
座敷に上がるが、茶ももらわず、押し入れから着替えを出させた。
袴田を履き、小刀と笠をうけとると、抱いてくれという女を退け、一分銀を二枚ほうり、帰って行った。

浪人は、桶屋の裏木戸をくぐった。住まいを借りていたのだ。
離れに向うと、母屋から主人が声をかけて来た。
「金子様、おかえりなさいまし。毎日お疲れさんでごさいます。お客様がお待ちでごさいますが。」
「客?」
「丸太橋の親分さんで、へ。お部屋にお上げしておきましたが。」
「ん。」というと、金子は離れにむかった。

桶屋の夫婦は、時折訪ねてくる親分のことを、金子が仇探しを頼んだからだと思い込んでいた。
金子は、父の仇を追い、国元を離れ江戸で一人で暮らしていた。

金子を訪ねて来た男は、丸太橋の与平次といい、表向きは岡っ引きだが、裏では金で殺しを請け負っていた。
金子は、平蔵殺しを依頼されていたのだ。

「背を向けたまんま逃げた?あの鬼平が。」

「あの場合、必ず振り向く。振り向いて刀を抜く、その僅かの隙に、俺は付け込むんだ。それが出来なかった。今だに信じられん。」

「ドジなことを。半年ぶりの仕事で、腕が鈍ったんですかね。」

「いや違う。奴が強すぎる。」

「じゃ、斬れぬとおっしゃるんで」

「いや、そうは言わぬ。だが、一つ間違えばこっちの首が飛ぶ仕事に、五十両は安すぎる。嫌なら、断るまでのことだ。」

金子が百両を提示したので、与平次は頼み人に掛け合うことにした。

ふと与平次は、金子の香りが気になった。
「あんたいつも艶っぽい匂いがする。いったい何処の女からそんな移り香を」
「女?あんたに頼まれて人を殺めて時から、俺は女に用の無い体になった。どだい女を欲しいとは思わん。」
与平次は「変わったお人だと」言うと帰っていった。

金子は一人になると白梅香を取り出した。自分の体に染み付いた、血の匂いを消すため、胸、首と香を塗り付けると、鏡で己の顔をみた。
そして、鬼平を斬る決意を新たにした。

〜ふねやど嶋屋~
平蔵は船宿で、岸井左馬之助に辻斬りの一件について話した。謎は、男の化粧の匂いだ。
左馬之助が、自分にも捜索を手伝わせろと言うと、平蔵は一寸考えたものの「酒しかださんぞ」と、手伝いを頼むことにした。

そこへ、おまさがやってきた。平蔵に言われ、匂い油の店を、しらみつぶしにあたっていたのだ。
その中で一件だけ、いつもお侍が買いに来る店があった、この匂いではと、白梅香を取り出した。
平蔵が香りを確かめると、まさにあの辻斬りの物だった。

〜紅お白粉 浪花屋~
浪花屋に金子がやって来た。自分の顔を見て、一寸驚いた表情を見せた女将に
「誰か私の事を聞きにきた者がいるのか?」と聞くと
「いいえ、そんな」と答える。

だが一瞬女将が外を見たことを見逃さなかった。その先には、左馬之助、また周囲には数名の同心が、変装し張り込んでいた。
手が回ったことを悟った金子は、逃げ出した。同心達は後を追う。

寺で追いつかれ、金子は6人に囲まれた。左馬之助とは、互角の様だ。
不利とみた金子は「やめた」と言い、また逃げていく。
酒井は、後を粂八に任せることにした。

逃げて行く金子を粂八がつけていた。だが気付かれたようだ。
金子は立ち止まると、刀に手をかけた。
粂八は、その殺気に足がすくみ、これ以上後をつけることが出来なかった。

左馬之助からあらましを聞いた平蔵は、
「やつの辿った筋からみて、仕掛人は深川一帯に幅きかす、丸太橋の与平次じゃねえか?」
と、目星をつけた….



ポイント

この回では、平蔵の「仕掛人」という発言によって、鬼平犯科帳の世界の中にも仕掛人がいることが分かる。必殺仕掛人のファンには、ちょっと興味深い部分だと思う。

必殺仕掛人は、同じ池波正太郎原作のテレビ時代劇だが、必殺シリーズのなかで、原作があるのは第1作だけ。必殺仕掛人では、登場人物がしばしば「仕掛」という言葉を発しているが、鬼平犯科帳のこの話のなかでは、仕掛人たちは「仕掛」という言葉は使っていない。

また、鬼平犯科帳’81・第24話「おみよは見た」でも、仕掛人が登場するが、この回では平蔵は「仕掛人」とは呼んでいない。

もう一つこの回の見所と言えるのが、平蔵と金子の対決シーンだろう。冒頭と最後の二回、両者は剣を交えるのだが、どちらもカメラが引いていて、太刀筋だけでなく足の動きまでしっかり写っていて殺陣を堪能できる。二度目の対決シーンは「ふねやど嶋屋」の座敷で行われるのだが、錦之助の殺陣は、息をのむような殺気だった。

オープニングクレジット

プロデューサー:片岡政義、市川久夫、中岡潔治
原作:池波正太郎(文藝春秋刊)
脚本:小川英
音楽:木下忠司

キャスト

長谷川平蔵:萬屋錦之助
木村忠吾:荻島真一
沢田小平次:潮哲也

大沢萬之价
菅啓次
伊沢一郎
今井健二
松金よね子
宍倉るみ
森幹太
岩城力也
東静子
原田千枝子
福留幸夫

ナレーター:小林昭二
殺陣:松尾玖治、錦燿会

金子半四郎:地井武男
おまさ:真木洋子
小房の粂八:藤巻潤
酒井祐助:目黒祐樹
岸井左馬之助:神山繁

監督:高瀬昌弘

エンディングクレジット

スタッフ

撮影:伊佐山巌
照明:内田皓三
録音:谷村彰治
美術:鳥居塚誠一
制作 小島高治
編集:大高勲
整音:T・E・S・S
選曲:宇賀神守宏
効果:東宝効果集団
助監督:是沢邦男
色彩計測:淵野透益
記録:中田秀子
タイトル:鈴木日出夫
演技事務:田中忠雄
俳優管理:田原千之右
制作進行:長沢克明
進行:加納譲治
制作宣伝:納村達夫
装置:横山英一
装飾:清水晋冶
美粧:鵜飼威志
技髪:川口義弘
衣裳担当:福田明
大道具:東京テレビアート
小道具:高津映画装飾
衣裳:東京衣裳
かつら:川口かつら
現像:東洋現像所
プロデューサー補:菊池昭康
協力:生田スタジオ
制作:テレビ朝日、東宝株式会社、中村プロダクション